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I love APIs Conference 2013

米国企業のAPIビジネス最前線まとめ&4つの事例~I love APIs Conference 2013レポート
2014/1/16 株式会社サムライズム 山本裕介  「I love APIs Conference」は、名前の通りAPIを愛する人たちのためのカンファレンスだ。API専門のサービスプロバイダーである「Apigee」が主催しており、会場となったサンフランシスコのフォートメイソンにはAPIを愛する800名を超えるパートナー、開発者が集結した。 フォートメイソンは観光名所であるフィッシャーマンズワーフ近くにある。元は海軍基地だった場所で、現国定歴史建造物に指定されている。かつて倉庫であった場所はイベントや展示会、結婚式会場として利用されている 前夜祭は由緒あるバー、ゴールドダストラウンジで開催  本稿では、基調講演やセッション、カンファレンス全体の雰囲気をレポートする。 【基調】デジタルビジネスの中心になるのはAPI 【分析】デジタル化がゴールではない。継続的な変化を 【事例1】北米最大級のドラッグストアWalgreens 【事例2】巨大ゼネコンBechtelは「公開を中心に」 【事例3】6万5000の無人キオスク端末を持つOuterwall 【事例4】1400以上のAPIを持つ電話会社AT&T 【設計】より多くの開発者に―― 使いやすいAPIの重要性 【総括】API時代の懸念はモバイルアプリ開発の人気 【基調】デジタルビジネスの中心になるのはAPI  カンファレンスを開幕を飾ったのはApigeeのCEO、Chet Kapoor氏だ。Kapoor氏はNeXTコンピュータ、BEAシステムズ、IBMなど名だたる企業で要職を務めていた。今回のカンファレンスの標語である「Digital Business」に触れながら、現代のビジネスは全てデジタルビジネスであり、デジタルなプラットフォームを必要にしていると強調した。 Apigee社CEO、Chet Kapoor氏による基調講演。「Apigee社が現在500を超える顧客を獲得しており、フォーチュン100に数えられる企業のうち20%が同社のサービスを利用している」(Kapoor氏)と堅調なビジネスであることを示す デジタルプラットフォームの重要な3要素としてアプリ、API、ビッグデータが挙がる 【分析】デジタル化がゴールではない。継続的な変化を  Accenture Technology Labsのディレクター、Mike Redding氏はどのようにデジタルがビジネスを成長させるのか、または縮小させ得るのかを研究している。 音楽のデジタル化を成し遂げたiTunes。その次は?  かつては、音楽を好きなように聞くにはレコード店でCDを買うものだったが、いまやiTunesで音楽を購入することが当たり前になったように、デジタル化がビジネスを劇的に変える力を持っていることは明らかだ。 楽曲販売の主戦場はレコード店からオンラインへ 出版コンテンツの媒体は紙からデジタルへ  しばしばビジネスのデジタル化は産業革命になぞらえられるが、デジタル化は革命の後にも継続した変化が必要となる点が大きく違うという。  Redding氏が例として挙げたのが、iTunesだ。iTunesは、楽曲をオンラインで、アルバム/曲単位ですぐに買えるようにしたという点ではビジネスモデルを大きく変えた。しかし、その後はPandoraやSpotifyをはじめとするストリーミングベースのサービスが隆盛。それにより、アップルは自身のiTunes Music Storeのビジネスを崩壊させる可能性すらあるストリーミングサービス(iTunes Radio)を自ら始めている。このことからも、「デジタル化がビジネスの終着点ではないことが分かる」(Redding氏)と説いた。 継続的な変化の鍵は「データ収集」と「ダッシュボード化」  では、ビジネスのデジタル化を果たした後、健全に新陳代謝を続けるために必要な要素は何だろうか。Redding氏が鍵として挙げたのは「データ収集」と「ダッシュボード化」だ。 インターネット接続デバイス群とデータ/プラットフォーム、モバイルダッシュボードが今後ビジネスプラットフォームの重要な要素になる スマートデバイスと連携したリアルタイム化で進む医療  例えば、医療の領域では電子カルテの導入による効率化は進んでいるが、「今後は家庭で継続的にデータを収集しておき、主治医に届けるといった仕組みが盛んになってくるだろう」(Redding氏)と予測。Nike FuelBandやFitbitなど最近流行しているスマートヘルスメーター端末の先を行くコンセプトだ。 デジタル化が当たり前の医療の現場では、今後スマートデバイスと連携したリアルタイム化が予測される 航空機のIoT化/API化  また航空会社のビジネスにおいては、燃料の次にコストが掛かるのがメンテナンス費用だ。原油市場をコントロールする力はもちろん航空会社にはないが、メンテナンス費用を押し下げる余地はまだまだあるという。  デジタル化の進んだ航空会社では、現在1回のフライトにつき平均して2万ものデータを収集している。しかし、それでも十分にデータを活用できているとはいえず、トラブル発生時に逐一、人間が確認しており、これが運行遅延などの大きなコスト要因となっているのが現状だ。  今後は航空機の装備のIoT(Internet of Things:インターネットに接続する機器類の総称)化を進めることで、各装備が自ら不具合またはその兆候を管理拠点に申告するような仕組みにしたり、そのためのAPI化を進めたりする。これにより、PCやモバイルなどからユビキタスに各装備にアクセス可能とすることで、大きなメンテナンスコスト削減が可能だという。データの活用によりトラブルの未然防止やメンテナンス個所の極小化が実現できるからだ。 壊れてから直す「待機型メンテナンス」から、機器自ら報告した不調のデータを基に、プロアクティブに対する「予防的メンテナンス」へ 【事例1】北米最大級のドラッグストアWalgreens  デジタルビジネス・デジタルプラットフォームの事例として引き合いに出されたのが、北米で最大級のドラッグストアであるWalgreensだ。Walgreensは「get stay and live well」を標榜する有名なチェーンで北米で8000店もの店舗を展開している。大げさな言い方をすれば「サンフランシスコではどの角を曲がってもWalgreensが目に入る」ほどだ。 店舗機能を外部のパートナーなしにAPIとして公開  医薬品からインスタント写真、雑貨まで、取り扱い商品が豊富な同社は、顧客を呼び込むために、Webやモバイル、API化やインターネット対応など、ハイテク化に積極的に取り組んでいるという。そして、店舗機能を外部のパートナーなしにAPIとして公開することで「ビジネスのデジタル化」を果たし、大きな成功を上げている。 Walgreens店舗の様子 モバイルアプリとAPIで注文、投薬のリマインド  デジタルビジネス化の足掛かりであり、またWalgreensのモバイルへの取り組みの代表格に数えられるのが「Pill Reminders」アプリだ。モバイルアプリで薬のバーコード部をスキャンして確認のタップをするだけで、薬の追加購入の注文が完了するというものだ。 動画:Walgreensのモバイルアプリによる「Refill by Scan」  また同アプリは会員カードの代わりになったり薬の飲み忘れ防止のリマインダーを出したりすることもできる。もちろん純正のモバイルアプリだけではなく、サードパーティアプリが連携できるようにAPIも公開している。 写真プリントと会員サービスのAPI  APIは大きく分けて3種類。Pill Remindersと同等のことを実現できる「Permacy Prescription API」(処方箋API)、写真プリントの注文ができる「QuickPrints」、会員カード情報との連携を実現できる「Balance Rewards API」(現在クローズドベータ中)がある。  中でもユニークなのがQuickPrintsだ。このAPIを使うと、モバイルアプリなどで撮影・加工した写真を、最寄りのWalgreensで手軽にプリント注文することができる。プリント数に応じた報奨がアプリ開発者に支払われるアフィリエイトプログラムが同APIの人気を支えており、現在60を超えるアプリ、サービスが連携しているという。 動画:Walgreens QuickPrints API Overview(06.19.13) API/モバイルで6倍になった顧客単価  また、同社のWebやモバイルサービスを活用する顧客の単価は通常の顧客に比べて6倍にも上るという。デジタルプラットフォームがビジネスの大きな差別化要因となることを物語る数字だ。 APIの活用で顧客単価、エンゲージメントの大きな上昇を果たしている 【事例2】巨大ゼネコンBechtelは「公開を中心に」  続いて事例に挙がったのは世界最大級の建設会社であるBechtel社だ。同社が抱えるプロジェクトの多くは、空港やダム、発電施設といった公共性の高い巨大かつ複雑なものばかりで、それらを運用するために常に最新の技術を導入している。 会社内、パートナー間、現場での情報共有に、そして同社のビジネスを加速するために必要不可欠な要素がAPIだ。 APIの活用はBechtel社の在庫管理の改善、費用削減など大きな成果を上げている  同社が関わる建設現場ではiPadをはじめとするモバイル端末が活用されており、モバイル端末とバックエンドシステムをAPIで繋いでいる。「モバイルファースト」と呼ばれて久しいが、「モバイルの次に考えるべきなのがAPIだ」とKapoor氏は強調する。  Bechtelは「まず現場で使えるモバイルアプリを開発し、バックエンドと接続できるAPIを開発して連携を広げていく」というアーキテクチャ設計方針を採っている。そしてAPIの価値を高める上で重要なのが、APIを単なるデバイスとバックエンド間、システム間の結合ポイントととらえるのではなく、外部に公開することを前提とする「Exposure Centric」(公開を中心に)という考え方だ。  これまでのAPIは必要に応じてパートナー向けに作り、時には一般向けにしぶしぶ公開するという場面が多かったが、最初からAPIを公開することを前提として開発することで、人間の介在が必要ないセルフサービスのワークフローが実現可能になるという。 モバイルファースト、Exposure Centricなアーキテクチャ 【事例3】6万5000の無人キオスク端末を持つOuterwall  Outerwall社は「Coinstar」という投入した硬貨をカウントして商品券と交換するキオスク端末を展開してきた企業だ。小切手やクレジットカード、紙幣をよく使う北米では、硬貨は釣り銭として受け取るだけで使わず、Coinstarでまとめて商品券化して使う消費者が多い。 Outerwall社のCTO、Carole McKlusky氏  Cointerで培ったキオスク開発・運用のノウハウを発展させて、同社は現在北米に約6万5000のさまざまな無人キオスクを展開している。中でも特徴的なのは、携帯電話を投入するとキャッシュバックを得られる「エコATM」、DVDやゲームを借りられる「Redbox」などだ。 Redboxの活況を表すインフォグラフィックス  同社では無人キオスクでビジネスを自動化するだけではなく、キオスクで得られるデータをAPIでアクセス可能にしているという。このAPIを活用するパートナーが同社のビジネスをさらに加速させているそうだ。 自動化、データの観察、そしてパートナー連携が同社のビジネスの鍵を握る 【事例4】1400以上のAPIを持つ電話会社AT&T  APIを活用していることで知られる、米国最大手の電話会社AT&Tも、本カンファレンスで自社のAPI戦略を説明した。「現在、IoTデバイス、×× as a Service、ソフトウェアベースのソリューションが人々の生活やビジネスの在り方を大きく変えている。ビジネスの変革のタイミングは以前より頻繁に起きており、それに適応する上でAPIが必要不可欠だ」と、Webサイトを例にAPIの重要性を説いた。 「持つかどうか」ではなく「どう作るか/公開するか」という時代  同社では「Webサイトを持つべきかどうか」という議論が10年以上前にあったが、今の時代、それはナンセンスであり、現在は「どのようなWebサイトにするか」が重要だという。APIも同様であり、既に「持つかどうか」ではなく、「どのようなAPIを作るか/公開するか」を考えるべき段階に入っているという。 APIは「持つべきかどうか」ではなく、既に内容勝負の時代へ  AT&Tの持つAPIは2012年末で78、2013年末では1455にも上り、月間APIトランザクション数は2012年6月時点で600万、2013年末で825万にも上る。同社のビジネスにおけるAPIの重要性は日を追うごとに増しているという。 APIを公開するに至ったきっかけとサードパーティの活用事例  北米最大手の電話会社であるAT&TがAPIを公開するに至ったきっかけは、同社の研究開発への投資を収益という成果に結び付けることが難しかったことにある。「技術はあるのに活用できていない」ことを受けて、パートナーがその技術を活用できる基盤としてAPIの公開に乗り出したところ、すさまじい勢いで技術革新が起きたのだという 戦略的にAPIの展開を進めるAT&T  代表的なものとしてモバイル向けクーポン発行サービスである「Street Savings」(SMS、決済APIを使用)、モバイル・デジタル秘書サービスである「spacktoit」(スピーチAPIを使用)、「Privus Mobile」(広告APIを使用)を紹介した。  どのサービスもAT&Tのサービスをフル活用しており、またAT&T単独では実現し得なかったサービスだという。独自に研究開発した技術を同社のみで囲い込んで活用するという方向性から、APIで積極的に技術を外部に公開することで、上記の他にも同社では思いもよらなかったサービスが日々誕生しているそうだ。 次々と生まれるAT&TのAPIを生かしたサービス 【設計】より多くの開発者に―― 使いやすいAPIの重要性  2日のカンファレンスを通して話題になったのが、APIの「デベロッパーエクスペリエンス」だ。あらゆるビジネスをAPIで連携できるようにすることは重要だが、そもそもAPIが使われなければ無意味なため、開発者に向いてもらうようAPIの使いやすさが鍵となるという図式だ。 簡単な「APIの歴史」 歴史より得た教訓:デベロッパーエクスペリエンスは重要 パネルディスカッション登壇者 URLやパラメーター名を十分に洗練させる  今後APIが増えていくのは既定路線で、当然同じことができるAPIが複数あれば簡単な方を開発者は選ぶ。デベロッパーエクスペリエンスを題目にしたパネルディスカッションで、Herokuのプロダクトデザイナー、Zeke Sikelianos氏は「implicitly is key(暗黙性が鍵だ)」と説いた。  つまり、URLやパラメーター名が十分に洗練されていれば、そのAPIが何をしてくれるのか、どんな結果が期待できるのかが暗黙的に(明示的にドキュメント化されていなくても)分かるというわけだ。 ドキュメントも重要  もちろんドキュメントも重要で、Twitter APIが盛んに使われるようになった理由は、その洗練されたAPIデザインだけではなく、簡潔で分かりやすいドキュメントにもあったというのが共通の認識だ。 サービス実装の前に、APIをデザイン  APIの設計、モック化、テストを簡単にするソリューションを提供する「Apiary」の創業者、Jakub Nestril氏は「サービスを実装する前に、まずAPIをデザインするというアプローチを推奨する」という。  「APIは内部データ構造を見せる形で設計されることが多いが、それでは開発者が使ってみたいと思うAPIにはならない。実装の前にテストを書いてインターフェースの正しさを確認するテスト駆動開発のように、先にAPIの設計をしてから実装に落とし込むアプローチはデベロッパーエクスペリエンスを大きく引き上げる」(Nestril氏) APIの設計は一貫性が大事  IFTTT社やTwillo社出身であり、現在Runscope社のJohn Sheehan氏は「APIの設計は一貫性が大事で、できることならば1人でデザインしてしまうのが良い」と意見する。  さらにSheehan氏は「多数のステークホルダーの意見を取り入れると複雑で学習困難、そして利用するのが苦痛なAPIが出来上がってしまう」と言い、その代表格としてOpenStackのAPIをやり玉に挙げた。 純正SDKは難しい  また、パネルディスカッション登壇者は純正SDKのリリースに対して消極的だった。SDKはAPIの利用を簡単なものにするが、多彩な言語やプラットフォームをサポートするのは大変難しいので、まずはAPIの設計にフォーカスすべきだという。 デベロッパーエクスペリエンスについて熱く語るパネルディスカッション 【総括】API時代の懸念はモバイルアプリ開発の人気  カンファレンスにはAPIのプロバイダとAPIを利用する開発者が一堂に会し、情報交換と多彩な事例紹介で盛り上がった。カンファレンスでは、基調講演やセッションの他、APIの有識者にインタビューをするコーナーも設けられ、それぞれのノウハウや思いを大いに語っていた。  インタビューの様子は「Apigee's Videos on Vimeo」で確認できる。  本稿筆者もTwitter APIを長年扱っているという立場から取材を受け、お粗末ながらAPIへの熱意やSDKの重要性について熱く語らせていただいた。 “エンタープライズのSOA”から“コミュニティのREST API”へ  ちょっとした驚きだったのは、取材時のスタッフが、以前筆者が勤めていたBEAシステムズの元同僚だったということだ。他にもBEAシステムズをはじめとするエンタープライズ系のベンダーからApigeeに移籍している人間は多くいるという。一時はXML Webサービスを主軸にSOAを推し進めていた企業にいた人たちが、REST APIをビジネスの中心に据えるApigeeに数多く移籍しているというのは、今の技術トレンドを象徴的に表している。 本稿筆者(中央)と元同僚(左右)、全員以前はBEAシステムズに勤務  またApigeeは、2012年に買収したBaaSフレームワークである「Usergrid」をApacheに寄贈したことや、OAuth 2.0の認可やクオーター、キャッシュ、Redisのバックエンドなどを備えたAPIサーバーを容易に構築できるNode.jsベースのOSSフレームワーク「Volos」の発表などOSSコミュニティへの積極的な貢献をアピールした。 BaaSフレームワーク「Usergrid」  XMLやSOAP、WebServicesといった技術を基盤としたSOAがエンタープライズ周辺でビジネスを中心に盛り上がったこととは対照的に、現在主流のREST APIは開発者やOSSコミュニティが主体となっていることがよく分かる。そしてGoogleやTwitter、FacebookなどがリードしてきたAPIのエコシステムだが、最近は規模を問わず、サービス開始とともにAPIを公開するケースも増えてきている。 懸念はモバイルアプリ開発の人気  一方で、APIビジネスにおける懸念として、カンファレンスを通じて指摘されていたのは「最近、開発者にはモバイルアプリ開発が人気だ」ということだ。つまり、相対的に「目に見えない」バックエンドやAPIの開発に興味を示さない開発者の割合が増えている。  クライアントサイドだけではアプリの広がりは限られるので、いかにAPIの開発・運用が効率的で楽しいものにできるかという点が今後重要になってくるだろう。今後のAPIの盛り上がりに注目していきたい。 @IT関連記事: 巨人の力を使っちゃえ!Web APIを使えば、あなたの夢も一発で実現 人気のAPI/フレームワークを作るための39カ条 「イベントカレンダー+ログ」レポート投稿募集中!このレポート記事が掲載されている本サービス「イベントカレンダー+ログ」では、イベント登録者がレポートを投稿できます。新着レポートは一覧に表示され、こちらのRSSにも配信されるので、ぜひご活用ください。