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QCon Tokyo 2013 Keynote 2 ファブラボ鎌倉の挑戦

FabLabがもたらすソフトウェア+ものづくりの新たな価値~QCon Tokyo 2013レポート
2013/6/12 TIS株式会社 佐伯純  QCon Tokyo 2013の2番目のKeynoteは、慶応義塾大学環境情報学部准教授の田中浩也氏によるMakerムーブメントやFabLabに関する話が展開された。  15年に1度、社会が技術に出会うタイミングがあるという説から、PC、インターネットと続いた流れの次に、ソフトウェアと物理的な世界の垣根がなくなる「パーソナルファブリケーション」という大きな波が起こりつつあるという認識とともに、Makerムーブメントやファブラボにより示される新たな潮流の可能性が語られた。 「好きなもの」とつながるためのパーソナルファブリケーション  話は田中氏が現在の活動へと導かれる原体験的な話題から始まった。小学生時代からゲーム作りなどソフトウェアの世界で活躍していた田中氏だが、街歩きや山歩きといったフィールドワークも好きだったという。  今回のセッションの中でも紹介された中学生時代に作られたゲーム「Walking in Sapporo」(札幌のことが分かるようになるRPG)や、東京大学大学院時代の研究で作成された画像を複数枚配置して疑似的に3次元空間を表現する「PhotoWalker」(Google Street Viewと同様のアルゴリズムで作成され、田中氏によると、マイクロソフトとグーグルは田中氏の国際特許を侵害しているらしい)などにも、それがよく現れている。  そんな田中氏が『Make』誌と出会って、何か作りたいと思い立ち作成したものが、ジュウシマツとコンピュータが会話をするためのソフトウェアとデバイスである。これは後に、日本中のジュウシマツの鳴き声を学習したコンピュータ同士の鳴き声による対話という形態や、同デバイスを今度は逆に森に持ち込んで本物のジュウシマツと対話させる(アルスエレクトロニカで賞を受賞)といった発展を見せた。  この作成体験を通して田中氏は、「ソフトウェアと実世界を連携させるさまざまなデバイスの作成方法を学んだ」と語る。さらに、室内で氷柱を作成する装置や植物内の電位を捉えて、その変化をLED表示することで、植物の感情を知ることができるようになる植木鉢など、数々のユニークな試みを行っている。  これらの試みを通して共通しているのは、「好きなものとつながるためのものづくり、ファブリケーションである」と田中氏は述べている。  「自分の身の回りに自分の好きな環境を形作るためのものづくりであり、単なるマーケティングからのものづくりではなく、個々人が自分の好きな物を作るものづくりと、それによって同じようなものが好きな人々と共感し、つながることができる世界が、そこには存在するようになる」(田中氏) 「製造業」のシフトの可能性  この「パーソナルファブリケーション」という流れは、既存の製造業のものづくりが取り組めていない領域へのものづくりが実現する可能性を示している。  田中氏も語ったように、これまでの大量生産の世界では、規模のメリットを効かせるためにも、ある程度大きなマーケットが見えていなければ製品を作ることができなかった。そこで作成されるものは、どうしても平均化されたユーザー像が持っていると想定される平均的な要求を実現するものでしかなかった。  しかし、実世界は、それぞれのユーザーが置かれている環境、状況も異なり、より多様なものが必要とされているはずである。  「“個々の小さな要求に答えるものづくり”という点では、自分だけのために作るDIYや、数人の人に送るためのギフトを作るようなものづくりは今までも行われてきた。ただ、数百人、数千人規模の同じような要求を持つ人々に向けたものづくりは、個々の小さなものづくりと大量生産との間で取り残されていた領域であり、この100~1万人の要求に答えるようなものづくりが、さまざまなパーソナルな制作技術により可能となりつつある」(田中氏)  そこには、これまでの製造業のあり方を覆し、多様な要求に答える多様な個性を持った製品が作られ、さらにはそれらが時を待たずに人々が必要とするタイミングで手元に届けられる未来が存在する。 実践の場としてのFabLab  しかし、世の中で喧伝されるように3Dプリンタや、その他のパーソナルでデジタルな工作機器があれば、すぐにでもそういった状況が作り出せるかというと、そうではない。田中氏も述べているように、個人で手に入るそれらの機器は、まだまだ原初的なものであり、作り出せるものには限界がある。また、使い方も学ばねばならない。  個人の家でそれらを持つのは、まだまだハードルが高いが、田中氏も主張するように、それらで作り出せるものは、生活の中でのちょっとした要求を満たすには、すでに十分に機能するものになりつつある。  そこで、登場するのがFabLabということになる。「FabLabは、かつてPCを共同利用していたメディアセンターのような存在である」と田中氏は述べる。現在世界中で145カ所ほどのFabLabが設置されており、田中氏が運営にかかわる「鎌倉FabLab」も、その1つだ。  FabLabにはパーソナルファブリケーションを可能とする、さまざまなデジタル工作機器や、その他工具などが、誰でも利用可能な形で用意されている。また各地のFabLabは、お互いにいつでも情報交換が可能な環境が整えられており、それぞれが個性のある活動を行っている。  セッションの中で語られたFabLabの活動の中にはインドやオランダの例がある。  インドの例では、とある小さな村の中にFabLabが設置されており、田中氏がデジタル自給自足生活と呼ぶように、ソーラークッカーや野犬撃退器といったような、本当に村人の生活に密着して必要なものが作り出されている。  また、同じくインドの例として、もう1つ「小学生が作成したインターネットを見たいがために作った」という無線アンテナの例がある。「作成するためのデータがありさえすれば、同じものがいくつでも作れる」というデジタルファブリケーションの利点が生かされ、今では村中で同じアンテナが複数作成・利用されるまでになっているらしい。  オランダの例では、「古いものを利用して、さらに価値の付加されたものを作り出す」というアップサイクルや、高齢者に向けた家庭内の機器操作を容易にするためのボタンを作り出すような「フューチャーセンター活動(フューチャーセッション」)の例が語られた。  いずれも個性的な活動であるが、田中氏のかかわる鎌倉FabLabもまた個性的である。鎌倉FabLabの活動は、いわば「職人技とデジタル技術の出会いから新たな価値あるものを生み出す活動」といえるものである。田中氏自身はもともとソフトウェア技術者であり、その特性上、「技」を見せようにも、なかなか世の中の人に分かってもらえるような形で示せない。  一方、伝統工芸などの職人たちは、自らの「技」を作り出すものによって表現でき、田中氏自身そのような職人たちの姿を「かっこいい」という意識で、「憧れを持って見ていた」と語る。そこで鎌倉FabLabの活動へとつながることになる。  田中氏は、セッションの中でいくつかの例を示したが、例えば、木製の皿の木目を画像認識技術で識別し、木目にぴったりと合わせた絵柄をレーザーカッターで描くといったようなソフトウェア+デジタル工作機+職人技のコラボレーションによるものづくりが日々行われている。 次のステップへ  そんなユニークな活動を展開してきた田中氏だが、「すでに鎌倉FabLabの運営は後継者に譲り、次の展開を考えている」とのこと。田中氏が次にやりたいことは、「工作機械自体を作ることだ」と語った。  セッションの最後に、田中氏が現在作成中の折りたたみ式の3Dプリンタが紹介された。「今、人々がノートPCを持ち歩いているのと同じように、いつの日か折りたたみ式の3Dプリンタを持ち歩き、すぐにその場で作りたいものを作るという世界が実現できるかもしれない」と田中氏は語った。  田中氏が作り出す工作機械により、さまざまな人々がさまざまなものづくりをいつでもできるような世界へと、さらに近づくことに期待したい。  最後に、今年2013年8月21~27日に日本で開かれる「世界FabLab会議(Fab9)」の会期中(26日)に国際シンポジウムが開かれるそうである。FabLab活動に興味のある方は、実際に鎌倉FabLabなどを訪ねてみるとともに、こちらに参加してみてもよいかもしれない。 QCon Tokyo 2013レポート プログラムは完璧でなければならないが、人は完璧ではない FabLabがもたらすソフトウェア+ものづくりの新たな価値 GitHubの中の人が使っているHubot、そしてChatOpsってなんだ? DDDが廻らない? スクラムが廻らない? それ2つ一緒にやれば廻るよ 大人気のログ収集ツールfluentdとは? そして、トレジャーデータやクックパッド、NHN Japanはどう使っているのか? HTML5と情報表現の最適化 WebRTCで変わるWebの未来 HTML5でできる多彩なビジュアライゼーション 「イベントカレンダー+ログ」レポート投稿募集中!このレポート記事が掲載されている本サービス「イベントカレンダー+ログ」では、イベント登録者がレポートを投稿したり、資料を一覧できるまとめページを作成できます。新着レポートは一覧に表示され、こちらのRSSにも配信されるので、ぜひご活用ください。